ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 白いお皿の上に、まるで宝石のように輝くケーキが乗っている。
 シャテーニュ——栗の豊かな風味を閉じ込めた、なめらかなムース。
 表面は薄いキャラメリゼが施され、スプーンを入れるとパリッと繊細な音を立てる。
 その下には、しっとりと焼き上げられたアーモンド生地が敷かれ、ほんのりと洋酒が香る。

 添えられたクレームシャンティは甘さ控えめで、優しく栗の風味を引き立てる。
 金箔がひとひら、静かに光を放ち、これが特別な一皿であることを物語っていた。

 そして、深い琥珀色のコーヒーは、愁さんが選んでくれたブルーマウンテン。
 酸味と苦味のバランスが絶妙で、シャテーニュの甘さを引き締めるようにすっと馴染む。
 口に含むたびに、静かに広がる香ばしさとコク。
 まるで、この特別な時間を心に刻み込むような味だった。
 
「最初のケーキセット、覚えてる?」

 愁さんが微笑みながら問いかけてくる。

「もちろん。モンブランでしたよね」
「そう。あのときは、シンプルな栗の美味しさを味わってほしかった。でも、今回は違う」

 愁さんはケーキを指しながら、静かに続けた。

「これはシャテーニュ。モンブランが“栗そのもの”を楽しむケーキなら、これは“栗の可能性”を広げたケーキだ。ラム酒の香りやカラメルのほろ苦さと合わせることで、より深い味わいになってる」
「……最後の報酬にふさわしいってことですか?」
「そういうこと」

 モンブランから始まり、シャテーニュで締めくくられる十回目の報酬。
 それは、まるで私たちの関係の変化を映しているようだった。

 スプーンですくったシャテーニュを一口含む。
 栗の甘さにほろ苦さが重なり、どこか大人びた味わいが広がった。

「うん、美味しい!」
 
 ふと顔を上げると、愁さんが満足げに微笑んでいた。