「しょ、正直に言ってくださいよ!」
「敵を騙すには、まず味方から……ってね。僕は天音さんの味覚を信じていたから」
そういえば、あの時お茶をしながら愁さんが「隠し味はチョコレートにしようと思う」って言っていた。すごく自然な口ぶりだったから、それが罠を仕掛けていただなんて全然わからなかった。
「言ってくれたら取り出したのに」
「天音さんには申し訳なかったけど、彼女を罠にかけるには取り出すわけにはいかなかったんだ。こちらが盗聴器に気づいたことを、向こうが気づけば盗聴をやめてしまっただろうからね」
愁さんは、“急に盗聴器を外してしまうと、相手の行動がエスカレートしてしまう危険性”も併せて説明してくれた。律花さんがそこまでするとは考えたくないけれど、ぞっと背筋が震えた。
「でも、なにもわざわざ罠にかけなくても、愁さんはきっと課題をクリアしてましたよ」
「そうだね。だけど、僕は許せなかったんだ」
「盗聴器を仕掛けたことをですか? だからあんな風に仕返しを……?」
「君を巻き込んだことだよ」
「えっ……?」
急に愁さんの表情が厳しくなり、思わず言葉を失った。
「天音さんのカバンに仕込むなんて、プライバシーの侵害じゃないか。僕も申し訳なかったよ。彼女を罠にかけるためとはいえ、天音さんのプライベートを犠牲にしてしまって……」
「プライベート……」
さぁっと血の気が引く感じがした。
「あ、あの! その盗聴器って、そこに録音されてるんでしょうか!?」
もし録音されているとしたら……私と愁さんの会話も、全部……!?
「さあ、どうだろう……? 僕はこういうのには詳しくないけど。でも、録音されていたとして、少なくとも風間さんの手元には渡っているだろうね」
……最悪だ。
私のプライベートなんてどうでもいい。
でも、愁さんとキ……キスしたりとか、その辺りの会話も録音されているということになる。
もしそんなものを聞かれでもしたら……!!
考えるだけで、顔が一気に熱くなる。
「え、ええと、その……」
何をどう言えばいいかわからない。
うろたえる私を見て、愁さんはにっこりと笑った。
「ああ、安心して。折を見て布に包んでおいたから、雑音程度になっていると思う」
「……!」
私は思わず愁さんを見つめた。
この人、本当に抜け目がない。
建築イベントの時といい、やっぱり愁さんって探偵に向いてるんじゃ?
「今はもう機能してないですか?」
「缶ケースに入れておくと、電波が遮断されるらしいから、大丈夫だと思う。だけど……」
愁さんは、盗聴器をアスファルトの地面に落とすと、勢いよく踏みつけた。
バキッという硬質な破壊音が響く。粉々になったそれを一瞥すると、何事もなかったように拾い上げ、再び缶ケースの中へ戻す。
「これで大丈夫だと思う」
「は、はい……」
なんとなく、愁さんが怖い。
普段はあんなに優しいのに、こういう時は迷いがない。
でもケーキを作るしか能がないなんて言っていたのに、すごく頼もしい。
愁さんの顔を見上げていると、にっこりと笑顔を返された。
「これで、安心して二人きりの時間が過ごせるね」
そう言って、私の手をきゅっと握ってくる。
「えっ? あ、は、はい……」
恥ずかしさが一気に込み上げてきて、思わず顔を伏せてしまった。
今まで散々、二人でレシピ開発をしていたのに──こんな普通のことでも、どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう。
「でも、せっかくだから、少しだけ寄り道していこうか?」
突然、愁さんが提案してきた。
「え?」
「帰りにスイーツでも食べて帰ろうかと思って」
その一言で、私の気持ちは少しだけ軽くなった。
だけど、さっき課題のケーキを食べたばかりだし、それに今は愁さんのケーキ以外を口にしたくない気分だった。
「まだ少し……愁さんのケーキの余韻を味わわせてください」
「敵を騙すには、まず味方から……ってね。僕は天音さんの味覚を信じていたから」
そういえば、あの時お茶をしながら愁さんが「隠し味はチョコレートにしようと思う」って言っていた。すごく自然な口ぶりだったから、それが罠を仕掛けていただなんて全然わからなかった。
「言ってくれたら取り出したのに」
「天音さんには申し訳なかったけど、彼女を罠にかけるには取り出すわけにはいかなかったんだ。こちらが盗聴器に気づいたことを、向こうが気づけば盗聴をやめてしまっただろうからね」
愁さんは、“急に盗聴器を外してしまうと、相手の行動がエスカレートしてしまう危険性”も併せて説明してくれた。律花さんがそこまでするとは考えたくないけれど、ぞっと背筋が震えた。
「でも、なにもわざわざ罠にかけなくても、愁さんはきっと課題をクリアしてましたよ」
「そうだね。だけど、僕は許せなかったんだ」
「盗聴器を仕掛けたことをですか? だからあんな風に仕返しを……?」
「君を巻き込んだことだよ」
「えっ……?」
急に愁さんの表情が厳しくなり、思わず言葉を失った。
「天音さんのカバンに仕込むなんて、プライバシーの侵害じゃないか。僕も申し訳なかったよ。彼女を罠にかけるためとはいえ、天音さんのプライベートを犠牲にしてしまって……」
「プライベート……」
さぁっと血の気が引く感じがした。
「あ、あの! その盗聴器って、そこに録音されてるんでしょうか!?」
もし録音されているとしたら……私と愁さんの会話も、全部……!?
「さあ、どうだろう……? 僕はこういうのには詳しくないけど。でも、録音されていたとして、少なくとも風間さんの手元には渡っているだろうね」
……最悪だ。
私のプライベートなんてどうでもいい。
でも、愁さんとキ……キスしたりとか、その辺りの会話も録音されているということになる。
もしそんなものを聞かれでもしたら……!!
考えるだけで、顔が一気に熱くなる。
「え、ええと、その……」
何をどう言えばいいかわからない。
うろたえる私を見て、愁さんはにっこりと笑った。
「ああ、安心して。折を見て布に包んでおいたから、雑音程度になっていると思う」
「……!」
私は思わず愁さんを見つめた。
この人、本当に抜け目がない。
建築イベントの時といい、やっぱり愁さんって探偵に向いてるんじゃ?
「今はもう機能してないですか?」
「缶ケースに入れておくと、電波が遮断されるらしいから、大丈夫だと思う。だけど……」
愁さんは、盗聴器をアスファルトの地面に落とすと、勢いよく踏みつけた。
バキッという硬質な破壊音が響く。粉々になったそれを一瞥すると、何事もなかったように拾い上げ、再び缶ケースの中へ戻す。
「これで大丈夫だと思う」
「は、はい……」
なんとなく、愁さんが怖い。
普段はあんなに優しいのに、こういう時は迷いがない。
でもケーキを作るしか能がないなんて言っていたのに、すごく頼もしい。
愁さんの顔を見上げていると、にっこりと笑顔を返された。
「これで、安心して二人きりの時間が過ごせるね」
そう言って、私の手をきゅっと握ってくる。
「えっ? あ、は、はい……」
恥ずかしさが一気に込み上げてきて、思わず顔を伏せてしまった。
今まで散々、二人でレシピ開発をしていたのに──こんな普通のことでも、どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう。
「でも、せっかくだから、少しだけ寄り道していこうか?」
突然、愁さんが提案してきた。
「え?」
「帰りにスイーツでも食べて帰ろうかと思って」
その一言で、私の気持ちは少しだけ軽くなった。
だけど、さっき課題のケーキを食べたばかりだし、それに今は愁さんのケーキ以外を口にしたくない気分だった。
「まだ少し……愁さんのケーキの余韻を味わわせてください」



