ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 愁さんが、ふっと笑う。
 指先で払う仕草をしながら、私の顎にそっと手を添えた。

「とってあげる」

 次の瞬間、ふわりと唇に温もりが触れた。

(え……?)

 驚きに目を見開く。
 けれど、愁さんの優しいぬくもりに包まれたまま、ふっと力が抜けてしまった。

 されるがままに目を閉じると、唇が軽く離れていく。

 頬が熱い。
 心臓が、すごい音を立てている。

「……っ」

 思わず声にならない息を漏らすと、愁さんはいつも通りの穏やかな表情で微笑んでいた。

 指先が頬を撫で、そっとクリームを拭い取る。
 そのまま、彼は指についたクリームをゆっくりと舐め取った。

 まるで、何事もなかったかのように。

「……うん、おいしい」

 どこかいたずらっぽい笑みを浮かべる彼を見て、胸がさらに高鳴る。
 さっきまで食べていたケーキの甘さが、口の中にまだ残っているのに。
 それ以上に、今のキスの方がずっと甘く感じてしまうのは、どうしてだろう──。