ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 そして、ついにケーキが完成した。
 オレンジクリームと、ほんのりと香るチョコレートの隠し味。
 当日にまた同じものを作らなければならないため、ノートに細かく分量を書き込んでいく。
 私と愁さんで試行錯誤を繰り返しながら作り上げてきたレシピ。
 そのレシピが、今、ようやく完成した。

 直径十二センチの4号サイズ。
 二人から四人で食べるのにちょうどいい、小さめの丸いケーキ。
 ふんわりと焼き上げたスポンジは、しっとりとした弾力を感じる。
 その間には、甘酸っぱいオレンジクリームがたっぷりと挟まれていた。
 カスタードと生クリームを合わせたような、なめらかな口どけ。
 オレンジがほのかに香り、爽やかな酸味がアクセントになっている。

 そして、そこに溶け込む チョコレートの隠し味。
 一見すると気づかないほど控えめに使われているけれど、口に入れるとほんのりとしたビターなコクが感じられる。
 甘さを引き締め、オレンジの風味を引き立てる役割を果たしていた。

 トップには、丁寧にカットしたオレンジとイチゴをバランスよく飾る。
 オレンジの透き通るような果肉が、みずみずしく輝いている。
 その隣に、鮮やかな赤色のイチゴを添えて。
 甘さと酸味のバランスがちょうどよく、見た目にも華やかさをプラスしてくれる。

 そっと包丁を入れると、スポンジとクリームが美しく層をなしているのがわかる。
 切り分けたケーキを、お皿にのせて、私と愁さんで向かい合って座る。

「じゃあ、味見……しますか?」

 私がそう言うと、愁さんが少しだけ緊張したように頷いた。

「うん。……いただきます」

 フォークをそっと入れ、ふわっとしたスポンジとクリームをすくう。
 口に入れた瞬間、爽やかなオレンジの香りが広がり、あとからふんわりと優しい甘さが追いかけてくる。
 チョコレートの隠し味が、ほどよいコクを加えていて、全体のバランスが絶妙だ。

「う〜ん、おいしいっ!」

 愁さんの作るケーキがおいしくないはずがない。
 それでも、驚いてしまうほどの完成度だった。
 
 ふと顔を上げると、愁さんが微笑んでこちらを見ていた。
 じっと私の反応を待っているみたいで、なんだか少し照れる。

「あっ……ごめんなさい、はしゃいじゃって。はしたないですよね……」

 子供っぽかったかもしれない。
 少し恥ずかしくなって、苦笑いしながら視線を逸らす。

「なんで? そんなことないよ」

 優しい声が降ってきた。

「僕は、おいしそうに食べてくれる天音さんを見るのが一番好きなんだ」

 胸が、ぎゅっとなる。
 そんな風に言われたら、また顔が熱くなってしまう。

 ──と、そのとき。

「……頬にクリームがついてるよ」