ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

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「……え?」

 涙を流しながら、私は瞬きを繰り返した。

「自惚れていいかな……? 天音さん、僕のこと……好き?」

 耳元で囁かれた声に、全身がびくりと震える。
 温かくて、優しくて、それでいて逃れられないほどの力強さがあった。

(私は、愁さんのことが……)

 胸の奥に押し込めていた感情が、まるで鍵を開けられたように溢れ出す。

「は、い……」
 
 胸がいっぱいで、息が詰まるほど苦しくて、かろうじてそれだけの声を絞り出した。
 次の瞬間、ぎゅっと愁さんの腕が私を強く抱きしめる。
 それに答えるように、私もそっと抱きしめ返す。
 心臓の鼓動が、お互いの身体を通して響く。
 重なり合うようにドクン、ドクンと鳴って、苦しくなるくらいに体温が上がっていく。

 ずっと好きだった──その言葉を、私は心の中で何度も何度も繰り返す。

 じゃあ、最初の告白も、謹二さんの前で言った言葉も……。
 演技なんかじゃなくて、全部、本当だったんだ。

 そう思った瞬間、顔が一気に熱くなる。
 胸がいっぱいで、息もできないほどの幸福感に包まれた。
 抱きしめられたまま、私の心も身体も、どんどん愁さんの熱に染まっていく。

「天音さん」
 
 愁さんの声が、少しだけ真剣になる。
 抱擁を解いて私をじっと見つめ、涙の跡を指でそっと拭われた。

「僕は、天音さんの味覚とセンスを信じてる。僕はケーキを作るから、何があっても僕を信じて。二人で課題を乗り越えよう」

 その言葉に、私の胸の奥で小さな灯がともる。
 愁さんが、私を信じてくれている。
 なら、私も……自分の気持ちを信じよう。
 
「……はいっ!」

 精一杯の笑顔を添えて、今度は迷わずに答えた。