ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「君、待って……!」
「はい?」

 よく通る愛らしい声で返事をし、彼女は振り返る。
 店の裏側は人通りも少ない。他の女性客に見られることもない。
 僕は思わず、天音さんの肩を掴んでいた。

「あの隠し味に気づいたのは君だけだったんだ、佐藤天音さん。君の舌を見込んでたのみがある。……僕と、付き合ってくれ!」
「……はい!?」

 天音さんは目を見開き、まるで理解が追いつかないといった表情を浮かべた。
 しまった、唐突すぎただろうか?
 
「あの、私はライバル店の人間ですよ!? 相手を間違えていませんか!?」

 明らかに警戒されている。
 当然だろう。今まで顔くらいは見たことがあっても、まともに話したこともない男から言われたら誰だってそうなる。
 それでも、僕は必死だった。
 こんなチャンスは、もう二度とないかもしれない。
 あの手この手でなんとか彼女の気を引き、仕事が終わった後に説明するという名目で、自然と連絡先を交換することができた。