ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 でも彼女はライバル店の娘だ。
 それに、お互いをまだよく知らない。
 どうしたらお近づきになれるだろうかと考えていた時、父から百貨店への出店の話と、その社長令嬢である風間律花さんとのお見合いの話が持ち上がった。

「以前から出店の話はしていたが……。風間のお嬢さんがおまえをいたく気に入ったようでな。婚約も視野に入れてほしいと言ってきた」
「僕は、出店も婚約もするつもりはないよ」

 まったく、コンテストが終わったばかりだというのに、休む間も与えてくれないのか。
 
「チャンスだと思わないのか」

 たしかに、百貨店に出店すれば利益は見込めるだろう。
 しかしそれ以上に商品を作らなければならないということだし、管理も必要になってくる。
 従業員の増員、仕入れや在庫管理……やることが増える。
 僕はケーキを作ることしか考えられず、そういった事務的なことは苦手だった。
 
「店については、ここだけで充分だ。手を広げて失敗する例だってある。それに、婚約は……」
「綺麗で聡明な方じゃないか。何の不満がある?」
 
 父は被せ気味に発言してきた。勝手に決められて、不満だらけだ。
 ここは多少強く出ないと、強引に進められてしまいそうだ。

「つ、付き合ってる人がいるんだ!」

 父に、初めて嘘をついてしまった。
 背中に冷や汗が流れる。