ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「俺だって、おまえのことが好きなんだよ!!」

 強く、真っ直ぐな創ちゃんの声が、静まり返っていた公園の空気を切り裂くように響いた。
 周囲の音が一瞬消えたような気がした。
 私はその声に圧倒され、動けないでいた。
 
「えっ……?」

 突然の告白に、思わず息が詰まる。

「や……やだな……創ちゃん……。冗談、でしょ?」

 ぎこちなく笑おうとする。でも、喉がこわばって、うまく声が出ない。

「俺がいつ、おまえに冗談言ったよ?」

 ズキリ。胸が痛む。
 だめだ。ちゃんと向き合わないと。
 創ちゃんは確かに思い込みが激しくて、突っ走るところはある。
 だけど──冗談を言ったことなんて、一度もない。

「おまえには冗談に聞こえたんだな」

 ぽつりと漏れた創ちゃんの声は、さっきまでの勢いとは違っていた。
 静かで、けれど痛いほどの本気が滲んでいる。

 横で百合香が、小さく息をのんだ。
 彼女は何も言わずに、ただじっと見守ってくれている。
 だけど、そのまなざしは「ちゃんと答えなきゃダメだよ」と言っているようだった。

 風が吹き抜け、木々の葉がさらさらと揺れる。
 日差しは暖かいのに、心臓だけが異様に熱を持っていた。

「……ごめん、創ちゃん」

 自分でも驚くほど小さな声だった。
 それでも、創ちゃんにははっきりと届いてしまったようで──彼の肩が、ぴくりと揺れる。

「そっか」

 短く、乾いた声だった。

「わかってたよ。わかってたけど……カッコ悪りぃな、俺」

 創ちゃんは笑った。ひどく無理をした、ぎこちない笑顔で。

「ごめんね、創ちゃん」

 謝ることしかできなかった。
 創ちゃんのことが嫌いなわけじゃない。むしろ、大切な友達だと思ってる。
 でも、それと「好き」は違う。

 ──私は、愁さんが好き。

 その気持ちは、もう誤魔化せない。
 何か言おうとした私よりも先に、創ちゃんが口を開いた。

「……ごめん。今は、それ以上聞きたくねえ」

 そう言って、創ちゃんは踵を返す。

「創太くん……!」

 百合香が思わず呼び止めかけたけど、創ちゃんは振り返ることなく、片手を軽く振っただけだった。
 私は、ただその背中を見つめることしかできなかった。
 誰かを好きになることは、本来、素敵なことのはずなのに──。
 それが時に、こんなにも誰かを傷つけてしまう。
 創ちゃんの遠ざかる背中を目で追いながら、そんなことを考えていた。