ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 愁さんが? 風間さんと? 婚約?
 頭の中で情報がうまく処理できず、言葉にならない声が漏れた。

「風間さんが言っていたぞ。まだ内々だけど、近日中に婚約発表するって。 昨日、それを聞いて栗本さんのところに確認しに行ったけど……」

 創ちゃんは苦しげに拳を握る。

「確かに栗本さんは『仕事上の関係』だとは言ってた。でもな……アイツ、あんまり慌ててる感じもなかったし、本当に何もないって言い切れるのか?」

 創ちゃんは息を荒げながら、私の肩をぐっと掴んだ。
 そんなはずない。愁さんは婚約を断るって言っていた。
 そもそも、そのための課題だったはず。
 だけど、私が恋人役なのは、謹二さんを納得させるためだけで、本当は……。

 不安に思っていると、百合香が私の腕をそっと引く。

「天音、とにかく一度落ち着こう? こんなところで話すことじゃないわ」

 確かに、創ちゃんの声が大きかったせいで、周囲の人たちがヒソヒソとこちらを見ていた。
 視線が痛い。

「……でも、私……」

 愁さんに、確かめなきゃ。
 けれど、もし──もし本当に、婚約するつもりだったら?
 愁さんにその気はなくても、強引に話を進められていたら?

 胸の奥がギュッと締め付けられる。
 そんな私の迷いを見て、創ちゃんはさらに苛立ったように叫んだ。

「おまえ、本当に信じてんのか!? アイツは──!」
「創太くん、もうやめて!」

 百合香が制止すると、創ちゃんは悔しそうに唇を噛んだ。

「……周り、みんな見てるよ。場所、変えよう……」