ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 数日後、今日はシャテーニュがお休みで、レシピ作りもお休みとなった。
 久しぶりに家でのんびりしていたけど、私の頭の中はどこか愁さんのことでいっぱいだった。
 正直、最初は報酬のケーキセットに釣られて引き受けたけど、最近は違う。
 愁さんに頼りにされることが、どこか嬉しいと感じてしまっている自分がいる。
 
 でも、そんな思いに水を差すような出来事が起こったのは、その日の夕方だった。

 買い物帰りに、なんとなくシャテーニュの前を通りかかった時、ガラス越しに見えた光景が私を立ち止まらせた。
 私服姿の愁さんが店の中で誰かと話している。
 それだけなら良かった。でも、その相手を見て私は固まった。

 あの女性……この間創ちゃんと一緒に歩いていた。
 高菱百貨店の社長令嬢──たしか名前は、風間(かざま)律花(りつか)さんだ。
 テレビや雑誌で見たことがある。
 時折、風間さんが笑顔を見せ、とても親しげに話しているのがわかる。
 胸がぎゅっと締め付けられるような感覚になった。

「そっか……そうだよね、私はただの『フリ』だもんね……」

 思わず自分にそう言い聞かせる。
 愁さんにとって、私は課題をクリアするための「相談役」。
 そして、謹二さんを納得させるためだけの「恋人役」でしかない。
 見ていられなくてシャテーニュの前を離れようとした時、入口の扉が開いて二人が出てきた。

「……あら?」

 私の姿に先に気づいたのは、風間さんだった。
 目が合ってしまい、思わず逸らしてしまう。
 風間さんの後ろから愁さんの顔が覗き、私に気づいて慌てるように前に出てきた。

「天音さん、どうしたの? 今日はお休みだよ?」
「ご、ごめんなさい。風間さんと会っていたんですね……。ちょっと通りかかっただけなんで」

 そう言って立ち去ろうとするが、今度は風間さんが話しかけてくる。
 
「あなたが佐藤天音さん?」