ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 いつも気さくで話しやすい創ちゃん。明るい表情で、なんの疑いも持たず私を見てくる。
 でも、下手に「誰にも言わないで」なんて言ったら、意地悪されて逆にお父さんの耳に入ってしまう可能性がある。
 黙って考えていると、創ちゃんがこちらを見て首を傾げている。
 私は、「やっぱりやめておこう」と、首を横に振った。
 
「……ううん、なんでもない!」
「なんだよ、気になるなー」
 
 創ちゃんはわざとらしく身を乗り出してきた。

「あ、もしかして、彼氏とうまくいってないとか?」
「そ、そんなことないわよ! そういう詮索はしないで」

 心臓が跳ねるのを感じながら、私はそっぽを向いた。
 創ちゃんの意地悪な笑みが視界の端に映る。

「ふーん?」

 低く伸ばされた声に、思わずムッとする。
 でも、これ以上何か言うと、余計に怪しまれそうだった。

「……もう、創ちゃんこそ、昼休み終わっちゃうんじゃない?」

 私は強引に話を終わらせようとした。

「そうだな。じゃあ、行くわ」

 創ちゃんは最後にアイスコーヒーを飲み干し、伝票を持って席を立った。

「あっ、お会計……!」
「払っとくよ」
「でも」
「学生に払わせるほど困ってねーよ。またな」

 創ちゃんは笑顔でそう言って、カフェを後にする。
 ガラス張りの窓から創ちゃんの姿を目で追うと、綺麗な女の人と合流していた。
 そして、少し会話したかと思うと、そのまま二人で歩いて行った。
 
(誰だろう……? どこかで見たことがあるような……?)

「あっ……!」

 思い出した。あの人、高菱百貨店社長の令嬢であり、本人も企画営業をしているっていう……。テレビで見たことがある。どうして創ちゃんと?
 もしかして創ちゃんの今の仕事って……高菱百貨店の関係?