ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 コンテストが終わって帰宅し、休憩する間もなくお父さんと他のスタッフと一緒に後片付けをした。うちは家とお店が一体になっているので、スタッフの人たちにお茶を出して労って、解散してようやくリビングで一息つく。

 家で待機していたお母さんが、「お疲れ様」ともう一杯お茶を入れてくれた。
 お母さんは、お店を手伝っていない。「一人で経営するなら」という条件で、お父さんは自分の店を持つようになったのだ。その代わり、こういう日はご馳走を作ってくれてたりする。早速キッチンから、いい香りがしてきた。審査でケーキを食べたばかりだけど、晩御飯もしっかり食べないとね!

 お父さんは、さすがに疲れたのかリビングの床で大の字になっている。

「ああー、くそっ。シャテーニュの旦那、まさか息子を出してくるとは……。勝ち逃げしやがって〜〜!」

 コンテストで、ファリーヌは二年連続負けが続いていた。これで三年……銀賞とはいえ、お父さんとしては悔しいだろう。
 すると、ガバッと起き上がって、とんでもないことを言い出した。
 
「天音、まさかおまえ、Bのケーキが俺のだとわかってて、贔屓だと言われないようにAに点数を入れたんじゃないだろうな?」

 そう言われて、さすがの私もカチンとくる。
 
「そんなことするわけないでしょ! 私は自分の味覚にプライドを持ってるの!」

 たしかに、Bのケーキの方がお父さんっぽいなとは思ったけど!
 胸を張って答えると、お父さんは床に手をついて項垂れてしまった。
 
「うぅう、俺のケーキはダメだったということか……」

 こうなると、お父さんは面倒くさい。
 しかし、根が単純なので、少し慰めれば復活も早いことは、もう長年の経験からわかっている。肩に手を置いて、優しく優しく慰める。
 
「そうじゃないってば。お父さんのケーキも、もちろん美味しかったわよ。でも、どちらかに決めなきゃいけないってなったら、Aの方だったの。お父さんだって、後で食べたんでしょう? 栗本さんのケーキ」
「たしかに……うまかった!」
「でしょう!?」

 すぐに復活して、胡座をかいて座り直した。
 やった、これでお父さんとシャテーニュのケーキについて談義できる……と思いきや。
 鼻先に人差し指を突きつけ、理不尽な要求をされた。
 
「だが、負けは負けだ! 腹が立つから、おまえはしばらくシャテーニュに行くな! うちのケーキだけ食べてろ!」
「はあぁぁぁっ!? なんでよ!? そんなの横暴よ!」

 あまりの理不尽さに、開いた口が塞がらなかった。
 スイーツは私にとっての生命線なのに!
 軽く取っ組み合いの喧嘩になり、「あんたたち、うるさい!!」とお母さんに一喝されたのだった……。