ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 その日、私は大学近くのカフェで一人読書をしていた。
 この間、ようやく資格取得の手続きが終わった自分へのご褒美として、スイーツ特集が載った雑誌を買ったのだ。
 
 ツアーコンダクターの資格を取るために、夏休み中に事前講習を受け、実習を二回こなした。
 先日実習のレポートを提出したので、後は修了証が届くのを待つだけだ。
 修了証が届けば、晴れて「国内旅程管理主任者」となり、日本国内の添乗員として働けるようになる。
 そんな怒涛の夏休みだったので、私は少し緊張が緩んでいた。
 
「うぅ〜ん、おいしそう……」

 雑誌に載っているスイーツの魅力に、気づけば口が半開き。
 危うくよだれが垂れそうになり慌てて口元を拭う。

 いつもは近場のスイーツマップを調べたりするけれど、この雑誌は関西の特集。
 料理もそうだけど、スイーツも地域によってそれぞれ特色がある。
 私の夢は、いつか全国のスイーツを制覇すること。そして、できれば世界も。
 
 海外添乗員になるには、「総合旅程管理主任者」の資格が必要になる。
 それには、また講習や実習を受けなければならないので、旅行会社に就職してから資格を取る人が多いようだ。
 夢に向かって勉強するのは楽しい。だけど──

 今度は、お店のメニューを開いた。

「やっぱり、まずは食べなきゃね」

 ついいつものクセで、無意識にデザートのページを見る。季節限定のスイーツが目立つように載っていて、私を誘惑してくる。
 ……ダメダメ! 愁さんとの課題が始まったから、今は愁さん以外のスイーツは食べないって決めたの! ああっ、でもおいしそう……!
 ぐっと我慢して、別のページを開く。ちょうどお昼時だし、パスタランチを選んで店員さんを呼ぼうと手を上げかけた時、聞き覚えのある声がした。

「天音……?」