ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

(……え?)

 驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは──愁さんだった。

「愁さん!? どうしたんですか? 風邪でもひきました?」

 突然の登場に戸惑う私とは対照的に、愁さんは息を切らしながら真剣な表情をしている。

「怪我は大丈夫なのか!?」
「は、はい。ちょっと捻っただけです」

 ……あれ? なんで怪我のことを知っているんだろう?
 
「そうか……よかった……」

 ほっと息をつく愁さん。
 
「でも、どうして愁さんが……?」

 私が不思議そうに訊ねると、愁さんはほんの少し眉を寄せ、優しく微笑んだ。

「君の友達に連絡をもらって、飛んできたんだ。天音さんが、怪我をして病院にいるからって」

 ……友達?
 嫌な予感がして、私はスマホの通話履歴を見る。
 百合香は、私の家じゃなくて愁さんに電話をかけていた。

「ゆ、ゆり……っ!?」

 百合香の名前を叫びそうになり、勢いで立ち上がった瞬間、足に痛みが走る。

「いたっ……」
「危ない!」

 バランスを崩した私の身体を、愁さんがとっさに支える。
 しっかりとした腕に包まれると、ふわりと香るスイーツの匂いが鼻をくすぐった。

(ち、近い……)

 その距離感に、一瞬固まってしまう。

「……無理しないで」

 愁さんの声が、いつもよりも柔らかく響いた。
 きっと、仕事を早く終わらせて迎えにきてくれたのだろう。

「ありがとう、ございます……」
 
 その優しさにドキドキしながら、私は愁さんの車で家まで送ってもらった。