ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 診察の結果、腫れもほとんどなく、軽い捻挫という診断になった。
 三日くらい無理せずに過ごせば、自然に治るとのことだった。
 また一週間後にツアー実習があるため、それを聞いてホッとした。

「よかった……」

 挫いた左足は湿布を貼り、包帯でしっかりと巻かれた。
 
 診察が終わり、私は待合室のベンチに腰を下ろした。
 足を少し動かすだけで痛みはあるけど、まあ歩けないほどじゃない。
 ……とはいえ、このまま一人で帰るのはさすがに厳しい。

 すると、隣に座っていた百合香が手を差し出してきた。

「天音、スマホ貸して。代わりに連絡しといてあげる」
「えっ? いいの?」
「歩くの大変でしょ? ほら、パスコード解除して」

 スマホを渡すと、百合香は通話コーナーに向かって行った。
 そして数分もしないうちに、百合香は戻ってきた。

「伝えといたよ。誰か迎えに来てくれるって」
「ありがと、助かった」

 ほっとしてお礼を言った瞬間──

「あーっ、ごめん! 私、すぐ帰らなきゃいけないんだった!」

 百合香がスマホを返しながら、申し訳なさそうに眉を下げる。

「えっ、そうなの?」
「うん、本当にごめん! でも、迎えはもう来るし、大丈夫でしょ?」
「うん、大丈夫。ありがとうね」

 そう言うと、百合香は早足で去っていった。
 私は少し寂しさを感じつつ、病院の自動ドアをぼんやり眺める。
 しばらく待っていると、病院の入り口が開き、誰かが慌てた様子で駆け込んできた。

「天音さん!」