ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「──えっ?」

 駅舎に気を取られ、最後の一段を踏み外した。
 とっさに手すりを掴もうとしたけれど、間に合わない。

 グキッという鈍い感覚が足首に伝わる。

「天音!」

 百合香の声が飛ぶ。
 ズキンと鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめる。

「だ、大丈夫……ちょっとひねっただけ」

 何とか立ち上がろうとするものの、足をついた瞬間、再び痛みが襲ってきた。
 冴木さんも心配そうに近づいてくる。

「念のため、病院で診てもらったほうがいいわね」
「そうだよ、天音。私も一緒に行くから」

 百合香がスマホを取り出し、近くの病院を検索し始める。
 結局、私は百合香に付き添われ、タクシーで病院へ向かうことになった。