ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 結果が発表され、コックコートを着た愁さんが一歩前へ出る。
 コック帽を脱いで軽く会釈をすると、帽子の中にまとめられていた黒髪がはらりと垂れる。
 自然な仕草でそれを払いのけると、その顔立ちが一層際立つ。高く通った鼻筋、くっきりとした眉、そしてまっすぐな視線。その佇まいはどこか端正で、堂々としたオーラを纏っていた。
 
 一礼の後、金賞の証であるアクリルトロフィーが愁さんに贈られる。
 銀賞であるお父さんも、賞状をもらっていた。
 周りの拍手が二人を包み込む中、愁さんが視線を一般客の方へ向ける。
 その途端、一般客から悲鳴にも似た黄色い歓声が上がった。
 
「キャーーッ! 栗本さーーん!!」
「こっち向いてーーっ!」

 まるでアイドル扱いだ。
 なるほど、若くてイケメンともなれば、ケーキ以外のところでファンがついたりするのか。
 でも、私はちゃんとケーキだけで評価したわ。パティシエがどんな人だろうと、決して靡いたりしな、い……。

 愁さんが微笑んだ時、こちらと目が合った気がして、反射的に目を逸らしてしまう。
 ……不覚にも、ときめいてしまった。
 ケーキも美味しくてさらにイケメンだなんて、反則だわ!