ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「まったく……心配したのよ!」

 バスに戻ると奥様は、ほっとしたように涙を浮かべ、ご主人の腕をぎゅっと掴んだ。

「ああ、すまんすまん」

 彼は照れくさそうに頭をかき、私を見て微笑んだ。

「ありがとう。君のおかげで、もう一度、思い出と向き合うことができたよ」

 男性の言葉に、胸がじんわりと温かくなる。

「もうほら、みなさんに謝って!」
「そうだな……。みなさん、ご迷惑をおかけいたしました」

 山口さんが頭をかきながら、ぺこりと頭を下げる。
 なんだか、その夫婦のやりとりが、とても微笑ましく思えた。