ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「添乗員だって体力勝負ですからね。お客様の自由行動中、短時間でも休めるときに休んでおくのが大事なのよ」
「そ、そうなんですね……!」

 改めて、プロの仕事のペース配分を学ぶ気がした。
 私たちは施設の一角にある自販機でそれぞれ飲み物を買い、待機中のバスへ向かう。
 シートに座り、ペットボトルのキャップを開ける。
 少しぬるくなった風が窓を吹き抜けた。

(まだまだ暑いな……)

 冷たい飲み物を喉に流し込むと、すうっと汗が引いていく。
 実習はまだ終わりじゃない。しっかり学ばなくちゃ。
 遠くから漂ってきたカフェのコーヒーの香りを感じながら、私は再び気を引き締めた。

 ツアーも終わりバスに乗ってお客様の数をかぞえていると、不安そうな声がかかった。

「すみません、夫がいないんです……」

 高齢の女性、山口さんが涙目でうろたえている。
 同行していたご主人が、いつの間にかいなくなったらしい。