ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 最後の場所は、旧倉庫をリノベーションして商業施設とシェアオフィスが入った複合施設だ。
 ツアー参加者は、ここで自由に買い物ができる。
 
 商業施設のエントランスを抜けると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
 目を向けると、ガラス張りのカフェのショーケースに、美しく並べられたケーキや焼き菓子が見える。奥ではバリスタが手際よくコーヒーを淹れ、その香ばしい香りが広がっていた。

(美味しそう……。愁さんと一緒に来られたらなぁ……)

 思わずそう考えてしまい、はっとする。
 またやってしまうところだった。
 今は実習中、仕事を学ぶ時間だ。気を引き締めなきゃ。
 慌てて視線を正面に戻し、冴木さんの後を追う。

「ここからお客様は約一時間の自由行動になります。私たちはその間、交代で休憩しましょう」
「えっ、休憩……?」

 思わず声に出すと、冴木さんがくすっと笑った。