ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 ランチの後、次の目的地へ向かうバスの中。

「佐藤さん」
「はい」
 
 隣に座った冴木さんが、声をかけてきた。

「さっきのランチだけれど……。フランスのビストロやカジュアルなレストランなら、パンをソースにつけるのは普通の食べ方です。でも、フォーマルな場では控えたほうがいいですね」

「えっ……」

「今回は、お客様も楽しんでいたから問題なかったけど、もし格式の高いレストランだったら、雰囲気にそぐわないと見られることもあります。ツアーの場面によって、食べ方を変えられるといいですね」

 優しい口調だったけど、それが熟練者のアドバイスだということは、すぐに分かった。

「……すみません」

 ちょっとだけ気まずくなっていると、冴木さんはくすっと笑った。

「それにしても、お客様を巻き込むのが上手ですね。皆さん、すごく楽しそうでした」

 その言葉に、私はホッと胸をなでおろした。
 私の悪い癖だな。冴木さんの言うとおり、今度から気をつけよう……。