ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 最初は遠巻きに見ていたお客様たちも、ちらちらと私の様子を伺いながら、ひとり、またひとりとパンをちぎり、恐る恐るソースにつけ始める。

「……あ、美味しい!」
「ほんとだ! こうやって食べるの、アリね!」
 
 最初は遠慮がちだった人も、気づけば楽しそうにパンとソースを交互に味わっていた。
 
「ね、やっぱり美味しいでしょ?」

 得意げに微笑む私に、百合香は呆れたようにため息をついた。
 他の研修生の人たちも、ため息をついてくすくす笑っている。

「もう……まったく、天音には敵わないんだから」

 私は、あまりの美味しさに夢中になりすぎて、冴木さんの視線に気が付かなかった。