ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「ん〜〜〜〜っ!」

 あまりの美味しさに目を閉じて味覚に集中し、頬に手を当てる。
 どちらも甲乙つけ難い。
 そもそも、美味しいケーキに優劣をつけるなんて、本当はやりたくない。

 でもコンテストの審査員として、心を鬼にしてどちらかを金賞にしなければならない。
 強いて言えば、Aのケーキの隠し味。あれが気になっている。
 私は、Aのケーキに満点をつけ、採点用紙を係の人に渡す。
 他の審査員も点数をつけ終えたようだ。

 審査員長が五人の採点用紙を集計し、合計得点がホワイトボードに書かれる。
 結果、ファリーヌが471点。シャテーニュが480点。
 私が満点をつけたケーキは、どうやらシャテーニュの方だったようだ。
 お父さんには申し訳ないが、今年のAのケーキは一味違った。
 
 そういえば、シャテーニュのパティシエさん、去年引退されて今年は別の人が出るって言ってたな……。
 気になって、コンテストの資料を確認する。
 お名前は……栗本愁さん、か。二六歳だから、息子さんかな?
「シュー」だなんて、美味しそうな名前。思わずくすりと笑ってしまった。
 愁さんって呼ばせてもらおうかな。
 こんな美味しいケーキを作るなんて、一体どんな人なんだろう?
 ワクワクした気持ちで壇上の方を見ると、愁さんとお父さんが並んで立っている。