ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 八月も後半、夏の名残を感じる暑さの中に、ほんの少しだけ秋の気配が忍び寄っていた。
 今日は、大学のツアーコンダクター実習の初日。
 私はタイトスカートのネイビーのビジネススーツを着て、朝早くから集合場所である東京駅に向かっていた。
 今回は、都内近郊を巡る日帰りバスツアーの実習。
 実際のツアーに添乗員見習いとして参加し、熟練添乗員のアシストをしながら学ぶというものだ。

「天音、こっち!」

 集合場所で百合香の声が聞こえた。
 振り返ると、ダークグレーのパンツスーツ姿の百合香が手招きしていた。
 彼女も今回の実習に一緒に参加する。
 普段はクールな百合香だけど、実習モードの彼女は真剣な眼差しで手にした資料をめくっている。

「緊張するね」
「まあね。でも、こういうのって場数を踏むしかないでしょ?」

 いつも通りの百合香の落ち着いた声を聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。