ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

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 創ちゃんがガイド役を務めるというリノベーションイベント。
 会場は、百年前に建てられたという建築事務所だった。
 古い建物と聞いていたけれど、歴史を感じさせる重厚感の中に、どこかモダンな雰囲気が漂っていた。
 大きな窓とシンプルなラインが印象的で、まるで時間の流れを超えて今に蘇ったように見える。

 仕方なく一人で訪れたけれど、会場にはたくさんの人が集まっていた。
 家族連れや若いカップル、建築好きらしい年配の男性たち。
 賑わう人々の声に混じって、創ちゃんのハキハキとした声がどこかから聞こえてくる。

「元々はこんな姿だったんですよ」

 と、創ちゃんが案内している写真パネルに目を向ける。
 モノクロの古びた写真には、時代を経た外壁と、今とは違う窓の配置が写し出されていた。
 それが今では、ガラス張りのエントランスや、清潔感のある明るい壁面に変わり、建物全体が開放的な空間へと生まれ変わっている。

「……すごいなぁ」

 思わず声が漏れる。
 手入れが行き届いているだけではない。
 この建物を設計した人たちの想いが、何十年もの時を超えて形を変えながらも生き続けているように感じたのだ。

 中に入ると、当時の建築資材が一部残されている展示スペースがあった。
 柱や梁には、百年前の技術と職人の手仕事がそのまま記録されているかのような痕跡があり、じっと見入ってしまう。

「こちらが、当時のオリジナルの図面を基に復元した部分です」

 創ちゃんの声が耳に届き、振り返ると、ちょうど彼がガイドをしながら展示物を指差して説明しているところだった。
 白いワイシャツ姿が建物の雰囲気に溶け込んでいて、昔から変わらない創ちゃんのまっすぐさが少し眩しく見える。

 勉強のために見に来たつもりだったけど、気づけば建物の魅力に引き込まれてしまっている。
 それに、創ちゃんのガイドもとても参考になりそうだ。
 創ちゃんの声に導かれながら、私は静かにこの場所の歴史を感じていた。