ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「……まあ、いいか。でもさ、創太くんにバレちゃまずいの?」
「そういうわけじゃないけど、創ちゃんって思い込み激しいところあるから……。それに、お父さんの耳に入っちゃう可能性も高くなるから」
「あ、そうか。ごめん」
 
 百合香は素直に謝ってくれたけど、私はなんとなく落ち着かない気持ちになった。
 創ちゃんの思い込みの激しさ……昔から、いったん決めたら一直線で、話をよく聞かずに突っ走ってしまうところがあった。
 昔のことを思い出し、どんよりとした気分になる。
 気分を入れ替えて、創ちゃんにもらったチラシに目を向けた。
 そのイベントは、築百年の建物をリノベーションして、新たな魅力を伝えるイベントらしい。
 どこかで見た名前だな……と思った次の瞬間、ハッとした。
 
「ちょっと待って、これ……」

 私は慌ててカバンの中からツアー実習の資料を取り出し、ざっとページをめくる。

「やっぱり! これ、私たちの実習先の一つだよ!」

 百合香も覗き込み、驚いたように目を見開いた。
 
「本当だ、すごい偶然ね」
「ねぇ二人で行こうよ! 下見も兼ねて、勉強になるかも!」

 しかし、百合香は渋い顔をした。
 
「あ〜、今度の土日かぁ。ごめん、予定入ってるわ」
「そっかぁ……どうしようかな」
「何言ってんの? 愁さんと行けばいいじゃない」
「えっ!?」

 思わず、スプーンを落としそうになった。
 
「あんたまさか、本当に課題のためだけにお付き合いするつもり? フリとはいえ恋人になったんだったら、デートの一つでもしなきゃ」
「で、デートって……」
 
 愁さんと一緒に歩く姿を想像するだけで照れてしまう。
 意識したら最後、もう頭の中がぐるぐるしてしまって、味わうはずだったパフェの味がまったくしなくなってしまった。