ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 真っ白な三段のウェディングケーキ。
 花やフルーツで彩られ華やかになっている。
 その上には、私たちを模した可愛らしいシュガーフィギュアが乗っていた。

 私たちが注文したものと、違う。
 
「これ……?」

 信じられない思いで隣を見ると、愁さんも驚いた顔をしていた。
 すると、マイクを持った司会者がニコニコしながら言う。

「こちらのウェディングケーキは、新婦のお父様・大輔さんと、新郎のお父様・謹二さんの合作です!」

「ええっ!?」

 会場がどよめく。愁さんも、「やられた」と苦笑している。
 私も驚いて、思わず父の方を見た。

「お父さんが……?」

 父は照れくさそうに頭を掻いている。
 愁さんのお父さん──謹二さんも、少し誇らしげな笑みを浮かべていた。
 
「まさか、シャテーニュの旦那と一緒にケーキを作ることになるとは思わなかったけどな」
「でも、仕上がりは完璧だろう?」

 そんな二人のやり取りに、会場からくすくすと笑いが起こる。
 私は、もう感激で胸がいっぱいだった。
 こんな素敵なケーキを、私たちのために作ってくれたなんて……。

 涙が込み上げてきそうになったその時、ふと我に返る。

「これ、全部食べていいの!?」

 その瞬間、会場がどっと笑いに包まれた。
 愁さんまで吹き出している。

「天音さん、これはみんなで食べるんだよ」
「あ……そっか」

 さすがの私も、三段ケーキを一人でまるごとは食べられない。
 だけど、作ってくれた二人の気持ちを全部受け止めたいと思って、つい口に出てしまった。