ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 そして迎えた、試食の日。
 私たちは完成した『特別なケーキ』を、父と母の前にそっと差し出した。

「シャテーニュとファリーヌ、それぞれのいいところを合わせました」

 愁さんが説明する。
 ラム酒の香りがふわりと立ち上る、栗のガトー・バスク。
 父は黙ってフォークを手に取り、口に運ぶ。
 母もそれに続いて、一口食べた。

 しばらくの沈黙。
 その間、私の心臓は早鐘のように鳴り続けていた。
 これが、愁さんと私が一緒に作ったケーキ。
 父に認めてもらうための、想いを込めた一皿。

 ……どうか、伝わって。

 緊張で息を詰めていたそのとき、ぽつりと、父の低い声が落ちた。

「……それぞれのいいところ、か……」

 すべて食べ終えないうちに、父がフォークを置いた。
 それは、どっちの答えなの?
 さっきから心臓がどくどく鳴りっぱなしで、息が詰まる。
 
 父はゆっくりと顔を上げ、真っすぐな視線で私と愁さんを交互に見つめた。

「天音。本当に彼でいいのか」

 その言葉に、私は一つ深呼吸をして──
 
「もちろん! そのために、二人で頑張ったんだから!」

 力強く答えると、愁さんもすぐに口を開いた。

「お義父さん、お義母さん。……僕のケーキで、天音さんを一生、笑顔にします」

 その言葉に、父はしばらくじっと愁さんを見つめていた。
 愁さんも、その眼差しをまっすぐに受け止めるように父を見ている。
 そして、父は観念したように頭を下げた。

「……天音を、よろしく頼む」

 思わず愁さんの方を見た。
 驚いたような表情を浮かべた後、安心するように顔を綻ばせる。

「ありがとうございます……!」

 そう言って、深く頭を下げる愁さん。
 こみ上げてきた涙をこらえながら、私も父と母へと頭を下げた。

「お父さん、お母さん……ありがとう!」

 言葉にすると、胸の奥がぽんっとはじけたように、温かく満ちていく。