ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「……すみません、愁さん」

 家の前まで見送りに出た私は、そこで足を止めてぺこりと頭を下げた。
 愁さんはきょとんとした顔で、私を見る。

「なんで謝るの?」
「だって、父があんな……失礼な態度を取って。もう、ヒヤヒヤしてました」

 言いながら、ますます申し訳なくなって、私はもう一度深く頭を下げる。
 そのとき、ふわりと頭にあたたかいものが乗せられた。
 愁さんの手だった。

「そりゃあ、仕方がないよ」

 いつもの柔らかな声が、ふわりと胸に染み込むようだった。

「逆に、僕はうれしかったよ。天音さんがご両親にちゃんと愛されてるって、伝わってきたから」

 顔を上げると、愁さんが少し照れたように微笑んでいた。
 そのまなざしに、心がじんと熱くなる。

「それに──」

 愁さんはそっと私の左手を取り、指先を軽く持ち上げる。

「きちんと認めてもらって、またこの手に、指輪をしてもらいたいし」

 そう言って、そっと私の薬指にキスを落とす。
 その仕草が優しくて、胸がきゅっとなって、心が温かくなる。

「愁さん……ありがとう」

 愁さんとなら、どんな難題も乗り越えられる。
 改めて、そんな気持ちになった。