ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 名前を呼ばれ顔を上げると、そこに立っていたのは、明るい茶髪を短く切り揃えた快活そうな青年だった。

「そ、創ちゃん!?」
 
 驚いて立ち上がる。
 創ちゃんは、二つ年上の幼馴染。小中と同じ学校だったが、高校は別だった。工業高校を卒業した創ちゃんは、そのまま建築関係の仕事に就いた。今は遠くの県で仕事をしているはずなのに、どうしてここに?

「やっぱり天音かー。久しぶりだな」
 
 そう言いながら近づいてきて、笑顔で私の両頬をつまみ、引っ張ってくる。

「相変わらず、ほっぺぷにぷにだな」
「ひょ、ひょっと、創ひゃん……」

 頬をつままれ、うまく喋れない。
 すると、その様子を見ていた百合香が、勢いよく立ち上がった。
 
「ちょっとあなた」

 創ちゃんを指差して鋭く睨む。

「ずいぶんと親しそうだけど、女の子に対してそれはセクハラよ」
「えっ!? あ、ごめん!」

 創ちゃんは慌てて手を引っ込める。
 ようやく自由になった頬を、私は両手で軽く押さえた。

「百合香、創ちゃんのこれは挨拶みたいなものだから......」
「天音も、そんな簡単に許しちゃだめ!」
「は、はい……」
 
 百合香の叱責に、私も創ちゃんも恐縮して頭を下げ続ける。
 小さい頃からずっと創ちゃんとはこんな感じだったから、気にしたことなかったけど、他の人には不快に見えてしまうのかもしれない。