ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 イースターが終わると、本格的にプロジェクトが動き出したようで、クリスマスの繁忙期まではプロジェクト中心になった。
 スマホの画面に表示されたメッセージを見て、少しだけ息を吐く。

『ごめん、今日も遅くなる』

 愁さんからの短い連絡。
 最近、こんなメッセージばかりだ。最初の頃はビデオ通話をしたり、長文でやり取りしたりしていたのに、今はメッセージすら減ってきている。忙しいのは分かっている。でも、それでも……。

(寂しいな……)

 フランスと日本の時差は約八時間。私が授業や実習を終える頃、向こうはまだ朝。逆に、愁さんが仕事を終える頃には私はもう寝る時間になっている。最初は「それでも頑張ろうね」って励まし合っていたのに、気づけばいつの間にか、すれ違いばかりになっていた。
 
「天音、またスマホ見てるの?」

 百合香の声が耳に入り、ハッとしてスマホを伏せる。
 講義が終わり、百合香と大学近くのカフェに立ち寄っていたのに、スマホばかり気にしていた。
 注文した紅茶も、冷めてしまっている。
 
「今、目の前にいるのは百合香さんなのになー」

 百合香は、冗談っぽく口を尖らせる。

「ご、ごめん……」

 慌てて謝ると、百合香はすぐに柔らかな表情に戻る。
 
「愁さん、連絡ないの?」
「うん……。やっぱり、忙しいみたいで」

 言葉にすると、思った以上に寂しさが募った。不安もあるのにそれを認めたくなくて、私は笑ってごまかす。
 
「遠距離って大変だよね。私も前に付き合ってた人が海外勤務になって、最初は毎日連絡取ってたけど、そのうち疎遠になって……」

 百合香が少しだけ遠い目をする。
 
「え、なにその話? 初耳なんだけど」
「嘘でした!」
「なにそれ!」

 思わず吹き出して、二人で笑い合う。
 久しぶりに心の奥までちゃんと笑えた気がした。
 
「でも、天音は大丈夫でしょ? だって本気でお互いを想い合ってるんでしょ?」
「……うん」

 本気で想ってる。だけど、それだけで乗り越えられるほど、遠距離は甘くないのかもしれない。