ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 ティエリー・カロン氏のパーティーから、一ヶ月ほどが過ぎようとしていた。
 あれから私は、留学先のパリの大学でみっちりと語学やフランス文化の勉強をし、本来の留学生活を送っていた。
 その間、愁さんとは週一回ほどは会えていたけど、お互い忙しくて食事をする程度だった。

 そして、四月になって留学期間が終わり、私はひと足先に帰国した。
 満開の桜並木を歩くと、日本へ戻ってきたと実感する。
 またここから、日本での大学生活が始まる。

 帰り道で、どこからか甘い香りが漂ってくると、カロン氏のホームパーティーを思い出す。
 新作ショコラに、有名モデルのシャルロットまで来ていた。しかも、シャルロットが愁さんの従姉妹(いとこ)だったなんて。
 留学中に、あんなにタイミング良く招待してもらえるなんて、本当に夢のようだった。
 あんな経験は、もう二度とできないだろう。

 そして、愁さんと一緒に過ごした夜も──。
 あの夜から、一ヶ月経っているのに。
 愁さんのぬくもりは、まだ私の中に深く残っている。
 
 愁さんからもらった婚約指輪は、家に入る前にそっとリングケースに戻して、部屋に隠した。
 父に見つかったら、なにを言われるかわからない。
 それに、帰ってきたらお店の手伝いをするという約束だったので、指輪を汚したくなかった。

 愁さんとはスマホのメッセージで連絡を取り合っている。
 今は、四月下旬のイースターに向けて忙しくしているようだ。

 イースターは、フランスでは春の到来を告げる祭礼でもあり、クリスマスに並ぶ大切な行事だ。
 この時期になると、ショコラトリーのショーウィンドウには色とりどりのチョコレートが並び、店先にイースターエッグやウサギの形をしたチョコが飾られる。
 パーティーでもお披露目していた、カロン氏の新作も出るのだろう。

 そのため、クリスマスの時と同じように愁さんとはほとんど連絡が取れなかった。