ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

「……安心、って言うわりには」

 低い声が、耳の近くでささやかれる。

「パーティー中、ずっと他のショコラばっかり見てたよね。僕のことなんて、まるで気にしてなかった」
「……え?」

 甘さを帯びた声。
 私は顔を上げる。愁さんの目が、じっと私を見つめていた。

「ちょっとだけ、嫉妬してた。天音さんが他の誰かが作ったショコラに夢中になってるのを見てるの……あんまり楽しくなかった」
「愁、さん……」

 気づけば、距離が近い。
 頬にかかる髪を、そっと彼の指先がよける。

「でも……そんな顔見たら、許すしかないよね。酔った天音さんなんて、ずるいよ」

 そのまま、髪をなでるように触れられて——
 私は胸の奥がじん、と熱くなった。

「ねえ……天音さん。ほかのショコラより、僕のほうが甘いって、ちゃんと知ってほしいんだけど」

 愁さんの顔が近づいてくる。
 そのまま流れに身を任せてもよかった。
 だけど……。
 私は、彼女のことを思い出した。

「愁さんだって」

 ポツリと口にした途端、愁さんの動きがぴたりと止まった。
 
「愁さんだって、シャルロットと仲良さそうなの……嫉妬しちゃいました」
「え……」

 愁さんに戸惑う様子はない。ただ、純粋に驚いているようだ。
 パーティーの最中、シャルロットが愁さんの頬にキスした場面がよみがえって、再びモヤモヤとした気持ちになる。