ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 店員さんがドレスにアクセサリー、靴まで、次々と持ってきては手際よくコーディネートしてくれる。
 試着を終えると、今度は小さな口紅を取り出した。

《少し、赤を入れさせていただきますね》

 唇にのせられたのは、落ち着いたトーンの赤。
 ほんのひと塗りなのに、大人っぽさが一気に増す。

 髪も、ヘアアイロンで軽くウェーブをかけてもらう。
 鏡の中で仕上がっていく自分を見ていると、胸が高鳴って仕方がなかった。

《いかがでしょうか?》
 
 試着室の鏡に映る自分を見た瞬間、思わず息をのんだ。
 まるで別人みたい。メイクと髪型ひとつで、こんなに変わるなんて。
 どこかの国のプリンセスになった気分だ。
 
 エレガントなドレスは、深みのあるボルドーのサテン生地。
 照明の下で滑らかに艶めき、ワインのように上品な輝きを放っている。
 胸元は控えめなスクエアカットで、過度な露出はないものの、鎖骨のラインが美しく際立つデザインだ。

 アクセサリーは最小限に、華奢なパールのネックレスと、シンプルなイヤリング。
 だけど、さりげなくドレスの品を引き立てている。

 ドレスを身につけたまま試着室を出ると、愁さんが一瞬動きを止めた。
 驚いたように目を見開いたまま、私をじっと見つめている。
 店員さんにコーディネートしてもらったから、変ではないはず……だけど、似合っているかどうかは、また別だ。
 緊張で思わず裾をぎゅっと握ると、それに気づいたように愁さんは微笑んだ。
 
「……似合ってる」

 その言葉が、迷いを吹き飛ばしてくれる。
 全身を見つめられるその視線が、少しだけくすぐったい。
 でも、やっぱり愁さんに言われるのが一番うれしい。

「こんな素敵なドレス……夢みたいです」
「それなら、今日の記念にプレゼントするよ」
「えっ? ……いいんですか?」
「もちろん。君は、僕の婚約者なんだから」

 そう言って、愁さんは私の手を取った。

 そして改めて実感する。
 今日、私はただの留学生ではなく、愁さんの「婚約者」として、この場に立つのだと。
 ドレスに合わせたコートも購入し、私たちはブティックを後にした。
 脱いだ私の服は、お店の方から宅配で学生寮へ送ってもらうことができた。