ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 連れてこられたのは、サンジェルマン大通りにあるブティックだった。
 こんな高級なお店に入ったのは初めてだ。

ボンジュール(こんにちは)

 愁さんが、軽く手を上げて店員さんに挨拶をする。
 そうだった、フランスでは、客の方から挨拶するのがマナーだった。
 慌てて、愁さんに倣うように私も挨拶する。
 
《こんにちは……!》

 黒いスーツに身を包んだ女性店員が微笑んで応じた。

《ボンジュール、ムッシュ、マダム。ようこそお越しくださいました》

 どこまでも洗練された物腰で、まるで舞踏会に招かれた貴族のような気分になる。
 愁さんが一歩前に出て、さらりと告げた。
  
《今からパーティーに行くんですが、彼女をコーディネートしていただけませんか》

 その言葉に、思わず愁さんの顔を見上げる。
 
「えっ? 愁さん……?」
「そのままでも可愛いけど、せっかくだから」

 愁さんは、ふっと微笑む。
 その目はどこまでも優しくて、まるで私を宝石みたいに扱ってくれているようだった。

「MOFのパーティーなんて、なかなか参加できるものじゃないだろ?」
「……そうですね」
「だったら、思いっきり楽しんだ方がいい。せっかくだし、ドレスアップもイベントのひとつだよ」
「愁さん……」
 
 愁さんの気遣いに、嬉しく思う。
 本当は、このままじゃ子どもっぽいかなと、自分でも思っていたところだった。