ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 フランスは、三月になってもまだまだ寒い。
 晴れた日中は、ほんのり暖かく感じるものの、油断するとすぐに冷たい風が頬を刺す。
 
 待ち合わせは、サン・ジェルマン・デ・プレ地区にある教会前。
 この教会も、歴史のある建造物だ。
 サン・ジェルマンはパリの中でも高級住宅街として知られている。
 MOFともなればこんな場所に住んでいるのも納得がいく。

 教会前に辿り着くと、スーツ姿の愁さんが目に入った。
 スーツの上に、私がプレゼントしたストールを巻いてくれている。
 いつもは自然に流している髪も、今日はカッチリとセットしていた。
 行く人々……特に女性たちが、愁さんを見ている。
 中には、声をかける人も。ま、まさかナンパなんて……ことはないよね?

「愁さん、お待たせしました」

 タイミングを見て声をかける。

「ああ、天音さん。良かった」

 少し困った顔で、ホッとした様子の愁さん。

「参ったよ。結婚式の参列者と間違われて……。女性に声をかけられて困っていたんだ」
「あ……あ〜。なるほど。愁さんは素敵ですから、ちょっとわかります」

 そうだよね。こんな神聖な場所でナンパかも……なんて考えてしまった自分が恥ずかしい。

「天音さんも、今日は一段と可愛いね」

 しかし、愁さんは私の姿をじっと観察するように見ると、顎に手を当てて考え出した。
 
「……そうか、ごめん。気がつかなかった」
「えっ?」
「留学中に、急にパーティーなんて言われても困るよね。まだ時間はあるし……行こう!」

 愁さんは、私の手を取って歩き出す。
 
「えっ? 行くって、どこへ?」