ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 三月上旬。
 今日は待ちに待った、ティエリー・カロン氏のホームパーティーの日だ。
 フランスのショコラティエは、バレンタインが過ぎると、今度はイースターに向けて忙しくなると聞いた。
 特にMOFともなると、新作ショコラをお披露目するパーティーを開くことがあるらしい。
 そんな貴重な機会に招かれるなんて、フランスに来て良かったと改めて思う。

 朝からそわそわして落ち着かず、何度も時計を見ながら準備を進めた。
 いつもより念入りにメイクをして、お気に入りのワンピースを着ると、鏡の前でじっくりと今の自分の姿をチェックする。
 
「これで、いいかな……?」

 白のフリル袖と、黒のシックなフレアスカートのワンピース。
 これが私の持っている一番おしゃれなものだった。

 普段、アクセサリーなんてしないし、まさかフランスでパーティーに誘われるなんて思ってもいなかったから、私が持っているのは愁さんにもらった婚約指輪だけだ。

「首周りが少し淋しいな……」

 そう思いながらも、待ち合わせの時間に遅れそうになったので、コートを羽織って学生寮の部屋を飛び出した。

《あら、アマネ! 今日はデート?》

 私のめかしこんだ姿を見てそう思ったのか、入口の受付にいる管理人さんが、笑顔で声をかけてきた。

《あ、はい……。そんなところです》

 はにかんでそう言いながら、外出許可のリストに名前を記入する。
 パーティーに行くなんて、ちょっと恥ずかしくて言えなかった。

《じゃあ、きっと遅くなるわね。大丈夫よ、十時を過ぎるようだったら、外泊許可を書いておくから》

 管理人さんは、すべてを察したように親指を立ててくる。