ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 次に向かったのは、凱旋門。
 パリにはいくつかの凱旋門があるが、「凱旋門」と言えば、やはりシャンゼリゼ通りの西端にあるエトワール凱旋門だろう。
 ナポレオンが1806年に戦勝記念として建設を命じたもので、高さは約五十メートル。
 門の下には第一次世界大戦の無名戦士の墓があり、今も炎が灯され続けている。
 展望台まで上ると、パリの街並みが一望できた。

「わぁ……。あっちにエッフェル塔が見える!」

 高いところに上ると、はしゃぎたくなってしまうのはなぜだろう。
 
「本当だ……なんだか、思ってたより近いね」
「あっ、あっちはモンマルトルの方ですね。あの建物はたしか……」

 白亜の美しい寺院が丘の上に建っているのが見える。
 パリは有名な観光場所が多くて、つい忘れてしまう。
 頭の中でガイドブックのページを思い返していると、愁さんが隣で言った。
 
「サクレ・クール寺院」
「そう、それ!」
 
 サクサクのパイ生地のような、美味しそうな名前だった!
 ……でも本当は、『聖なる心』っていう意味の、神聖な言葉。
 私の食いしん坊脳は、つい何でも食べ物に結びつけてしまうけど、これは由緒ある寺院の名前だ。
 そんなことを考えちゃダメだよね、と慌てて意識を切り替える。