ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 食事を終えてカフェを出ると、まずはノートルダム大聖堂へ向かった。
 前に立つと、その威厳ある姿に圧倒される。
 石造りの壁は長い歴史を刻み、無数の彫刻が静かにこちらを見下ろしているようだ。

 1163年に建設が始まり、約180年かけて完成したこの大聖堂は、フランスの歴史そのものだ。
 かつてはナポレオンの戴冠式も行われ、数々の歴史の舞台となった。
 
「はぁ……すごいなぁ」
 
 荘厳なゴシック様式の建築を見上げる。
 もし建築家の創ちゃんがここにいたら、どんな感想を言うだろう?
 きっと専門的なことを語り出して、私は半分も理解できなくて苦笑するんだろうな。

 あれから、創ちゃんとは連絡を取っていない。

(……もう、前みたいには戻れないのかな)

 それでも、私はやっぱり、ぎくしゃくしたままで終わりたくないと思っていた。
 時間が経てば、少しは気まずさも薄れるのかもしれない。
 
(そうだ、写真撮って送ってあげよう……)

 お祈りしている人たちの邪魔にならないよう、隅の方で何枚か写真を撮る。
 すると、隣にいた愁さんが覗き込んできた。

「勉強熱心だね」
「来て良かったです。やっぱり実物は迫力が違いますね」

 ──いけない。
 愁さんと一緒にいるのに、創ちゃんのことを考えてしまっていた。
 写真を送ろうとしただけなのに、後ろめたい気持ちになる。
 やめておこう。日本へ帰ってから送ればいい。
 今は、思いっきり愁さんとパリ観光を楽しむ。
 そう思って、スマホをカバンの中にしまった。