ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 クリームソースとマッシュルームが絡められ、刻んだハムと、すりおろしたチーズ、さらにトリュフがたっぷりとかかっている。
 一口食べると、クリームソースのコクとチーズの旨味が絶妙に溶け合い、トリュフの香りがふわりと鼻を抜ける。

「ん……美味しい!」
「気に入った?」
「うん! すごく濃厚だけど、しつこくないし……フランスのチーズって本当にすごいですね」

 愁さんは、まるで自分が誉められたかのように「でしょ?」と笑いながら、自分の料理にフォークを入れた。

 カフェの窓際の席から通りを行き交う人々を眺めると、手を繋いで歩く恋人たちや、バラの花束を抱えた男性が。
 どこか甘い雰囲気が街中に漂っている気がした。

「そういえば、今日はカップルが多いですね」

 異国の地だから、そう見えるだけかもしれないけれど。
 すると、愁さんが軽くコーヒーを口に運びながら言った。

「ああ、バレンタインだからかな?」
「……あっ」

 しまった。すっかり忘れていた。
 日本では、バレンタインといえば女性から男性へチョコを贈る日。
 でも私は何も用意していない。

 そんな気持ちが顔に出ていたのか、愁さんがくすっと笑った。

「フランスでは、日本と違って男性から女性へ贈ることの方が多いんだ。義理チョコやホワイトデーもないし」
「そうなんですね……」

(でもせっかくだから、なにかプレゼントしたかったな……)

 バレンタインは過ぎてしまうけれど、今度の休みの日に、ショコラトリーでも覗いてこようかな。
 密かにそんなことを思いながら、食後のコーヒーを飲み干した。