ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 朝ごはんを食べた後は、愁さんと一緒にパリ観光へ出かけた。
 と、その前に市内にある学生寮へ挨拶に行かなければならない。
 スーツケースを持って寮を訪ねると、入り口にある事務所で、管理人さんらしき女性が座って本を読んでいた。
 
《日本から来ました、佐藤天音です。昨日は連絡するのを忘れていて、すみません》

 カウンター越しに拙いフランス語で伝えると、管理人さんは軽く肩をすくめて微笑んだ。
 
《ああ、いいのよ。よくあることなのよ》

 管理人さんは特段気にしていないようで安心した。

 荷物を部屋に置いた後は、いよいよパリ観光へ。
 私と愁さんのお休みのタイミングが合った、貴重な一日だ。
 街を歩いていると、日本語のガイドを先頭に歩くツアー団体を見かけた。

 私もいつか、ああいう風に仕事ができたらなぁと、憧れの眼差しでそれを見送った。

 まずは、近くのカフェで昼食をとることにした。
 石畳の道沿いに並ぶカフェ。
 店内は、温かいコーヒーの香りと焼き立てのパンの匂いで満ちていた。
 外のテラス席も使われていたけれど、さすがにこの寒さでは私たちは室内を選んだ。

「どれにする?」

 フランス語で書かれたメニューを開く。
 写真はなく、文字で書かれているだけのメニューに少し悩んだけれど、コキエットというパスタにした。
 フランスでは定番の、マカロニよりも小さいショートパスタだ。
 事前にいろいろ調べたけれど、やはり定番は押さえておきたい。
 写真が載っていないので、ちょっぴり不安だったが、香ばしい匂いと共にお皿が運ばれてきた。