ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 ……と、その時、ぐいっと肩を掴まれ、強く引き寄せられた。
 懐かしい温もりと匂いに、包まれる。
 そして、流暢なフランス語が静かに二人を制する。

《すみません。彼女、迎えに来たので》

 愁さんの、優しく低い声が耳に響き、ふっと力が抜ける。

《彼氏か……?》
《チッ……行くぞ》

 舌打ちし、もう一人と肩をすくめると、男たちは別の観光客を狙いに行った。
 
「大丈夫?」
「は、はい……助かりました。すみません、頭ではわかっていたんですが、いざとなると言葉が出なくて」
「僕の方こそ、遅くなってごめん。でも、迎えに来て良かったよ」

 そう言って愁さんは、ぎゅっと抱きしめてくれた。
 
「天音さん、会いたかった」
「私もです」
 
 長時間のフライトで疲れていたはずなのに、愁さんの温もりを感じた途端、身体の奥から力が湧いてくるようだった。
 そして、ゆっくりと身を離し、二人で出口方面へ歩き出す。
 愁さんは、私のスーツケースを引いて歩いてくれた。
 
「ちゃんと眠れた?」
「……あんまり」

 あんまりと言うより、ほとんど眠れなかった。
 狭い座席のせいもあるけど、それ以上に、愁さんに会えると思うと胸が落ち着かなかった。
 何度も時計を確認して、あとどれくらいで着くんだろうって、そればかり考えていた。

 そんなことを思い出しながら答えると、愁さんはくすっと笑った。
 
「まあ、予想はしてたけどね」

 その言葉に、私もつられて笑ってしまう。