ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

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 夜八時過ぎ、私は愁さんにメッセージを入れた。
 フランス留学のこと、両親にも了承をもらったこと。
 愁さんは、最初戸惑いながらも、喜んでくれた。

 返信のメッセージを見て、あたたかい気持ちになっていると、お母さんがノックもせずにいきなり部屋に入ってきた。
 思わず、肩をビクッと震わせる。
 
「ちょっと、ノックくらいしてよ」
「天音、スマホ貸しなさい」
「えぇ……? なんで?」
「あなたは海外留学(・・・・)に行くんでしょう? 親としての勤めをするだけです」

 微笑んではいたけれど、その目と口調に強い圧力を感じた。
 両親に許可をもらった手前、言うことを聞かないわけにはいかず、渋々スマホを手渡す。
 お母さんは、慣れた手つきでメッセージを打ち込んでいく。

 愁さんへと送られたその文面を見て、私は青ざめた。
 
『愁さんへ。
 天音の母です。フランス留学のことは本人よりお聞きになったかと思います。娘は海外での生活は初めてのことです。天音のことを、どうぞよろしくお願いします。くれぐれも、節度のあるフランス生活をお願いいたします』
 
「ちょっ……と! なんてこと送るのよ!」
「娘を異国に送り出す親の気持ち、ちょっとは汲んでもらわないとね」

 いたずらっぽく笑う母に、私は思わずこめかみを押さえた。
 そのメッセージが愁さんのもとに届いた数分後──

『天音さんのお母様。
 はい。心得ました。天音さんの安全第一で。ご安心ください、お母様』

 と、丁寧な文面で返ってきたのを見て、なんだかくすぐったくて、またあたたかい気持ちになった。