ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 その夜、私は両親と話し合った。
 ダイニングテーブルの向かいに座っているふたりは、案の定、渋い顔をする。
 お父さんは眉をひそめ、首を縦に振ろうとしない。
 お母さんも、困ったようにため息をついた。

 やっぱり、簡単にはいかない。
 申し込みの締め切りが近い。私は焦りを感じながら、言葉を探していた。
 話し合いがいったん終わり、ため息をついて自室に戻ろうとしたそのとき、

「天音、ちょっと」

 キッチンから顔を出したお母さんが、私を手招きする。
 「なに?」と近づくと、お母さんは腕を組み、じっと私を見つめながら訊ねた。
 
「あんたの留学って、もしかして愁さんを追いかけるため?」

 ──ドキッ。
 思わず言葉に詰まる。
 お母さんはそんな私を見てため息をつくと、ピシャリと言い放った。
 
「だったら、やめておきなさい」
「……どうして?」
「愁さんは、来年の春には帰ってくるんでしょう? 何も留学まですることないじゃない。遠距離で不安なのはわかるけど、それくらい待てないようじゃ、あんたたちの関係もそれまでだった、ってことよ」

 ぐうの音も出なかった。

 お母さんの言うことは、正論だ。
 恋人を追いかけるために大金をはたいて留学するなんて、客観的に見ればただの暴走だ。

 でも私は、

「そうかもしれない。でも……それだけじゃない!」

 お母さんの視線をまっすぐに受け止め、私は言葉を続ける。

「私は、本気でツアーコンダクターを目指してるの! 世界中を巡って、本場のスイーツを堪能して、その魅力を伝える仕事がしたい! 留学は、そのための第一歩なの……本当よ……!」

 気づけば、拳を握りしめていた。
 お母さんはじっと私を見つめ、やがてふっと小さく笑った。

「……わかった。じゃあ、お父さんを説得しないとね」

 もう一度、両親と話し合った。
 今度はお母さんも味方についてくれたおかげで、話は少しずつ前向きに進んでいく。
 
 帰ってきたら、たくさんお店の手伝いをするという条件で、お父さんも渋々了承してくれた。