ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 年が明け、お正月になった。
 私は、百合香と一緒に初詣に来ていた。
 境内は参拝客で賑わい、時おり華やかな着物姿が目を引く。
 新しい年の始まりを祝う人々の笑顔がそこかしこに咲き、屋台からは甘い香りや香ばしい匂いが漂ってくる。
 私も張り切って着物を着たけれど、愁さんのいない新年がこんなにも寂しいものだなんて、思ってもいなかった。
 色とりどりの振袖が行き交うなかで、百合香の赤と黒のコントラストが綺麗な着物がひときわ目立つ。

「ねえ、写真撮ろうよ」
「そうね」

 通行人の邪魔にならないよう、鳥居の隅に二人並んで立つ。
 百合香がスマホを構え、画面に映る私たちの姿を確認しながら、にっこりと微笑んだ。

「ほら、もうちょっと寄って。せっかくの着物姿なんだから、ちゃんと映るようにしなきゃ」
「うん……」

 画面越しに自分の表情を見て、少しぎこちない笑顔になっているのに気づく。
 愁さんが隣にいたら、もっと自然に笑えただろうか。

「ほら、ちゃんと笑ってよ。今年もいい一年になりますようにって気持ちを込めなきゃ!」
「……そうだね」

 深呼吸して、もう一度スマホのレンズを見つめる。
 
「撮るよ〜。……はい!」

 カシャリ、と電子音が鳴り、二人の自撮り写真が撮れる。
 すると、百合香が少し離れて私のスマホを構えた。