鹿島先輩が連れてきてくれたのは、始めて私が会長と出会ったあの温室だった。
相変わらず、驚くほど美しく花が咲いている。
鹿島先輩は温室を歩きながら、説明をしてくれる。
「ここは、秘密の花園。花の精の元になった花が植えられている場所です」
「元になった花? たんぽぽとか、バラとか、そういう?」
「少し違いますね。もう少し個別です」
個別?
「花の精は人の姿を得る時、一つの花の前で生まれるんですが、その花は特別で枯れる事は無いんですよ」
花の前に生まれるとは聞いていたけど、
「枯れる事が無い?」
「はい。例えば、たんぽぽがいくつか群生して咲いていても、花の精を生み出した一つのたんぽぽは、一つだけ枯れることのないたんぽぽになるんです」
「たんぽぽ全部が特別なんじゃなくて、一つだけが特別になるって事ですか?」
「そうです。その特別な一本を我々は元の花と呼んでいるんです。たんぽぽでは無いですが、これを見てください」
立ち止まった鹿島先輩が指すのは、薄い青紫色のバラだった。
「夢野青。彼は二年前、この花の前で生まれ、その日以来、この薔薇はずっと咲いています」
一眼見て、綺麗なバラだと思った。
一つの木から、まっすぐ伸びた枝の先に咲く薔薇は、どれも満開で、輝いて見える。
今を生きる美しさと、元来の神秘的な部分を持った、夢野先輩の花。
人の姿の先輩より、眩しいかも。



