この声……
「千代田くん!」
振り返った彼女は、嬉しそうに頬を染め、名前を呼んだ。
「あ、千代田?」
「喋ったの久しぶりに聞いた」
周りでは、喋った事にビックリしている人が多い。
「どうして、ここに?」
さっきまで私に絡んでいた女子が、悪意に満ちた目から、キラキラとした目に変わって、千代田くんに聞く。
あの様子……千代田くんの事、好きなのかな?
「花咲の事、迎えに来た」
千代田くんはそう言って、彼女の横を通り過ぎ、私の前に立つ。
「どうしたの? 生徒会の用事?」
私が訪ねると、千代田くんは何か言おうとして、何も言わず口を塞いだ。
呪いにならないか思っているんだろう。
でも、いいタイミングで来てくれた。
これで、ここから立ち去れる。
彼女に「話たいことがあるならまた今度」と言う前に、彼女はグイッと千代田くんに近づいていた。
「千代田くん、花咲さんって生徒会に入ったのってほんと?」
「本当だよ」
千代田くんは答えながら、一歩後ろに下がる。
その分彼女は一歩近づいた。
「えー、大丈夫なの? 転入生でなんにも知らないから手かかるでしょ。そもそも花咲さんって、悪い噂あるし」
キラキラした声ながらも、悪意が混じった内容。
悪口、止まらなそうだなぁ……
そう思いながら静観していると、
「花咲のこと、悪く言うな!」
千代田くんが、大きな声を出していた。
「千代田くん?」
今のいい方は、なかなか語尾が強いけど、大丈夫なの?
千代田くんの顔を見ると、彼は、やってしまったと青い顔をしていた。
「千代田くん。行こ!」
自分が何を言われようが、強硬的にここから居なくなろうとは思っていなかった。
でも今は、彼の腕を引っ張って、人の隙間を抜けていく。



