千代田くんが、少し驚いた様子で私を見つめる。
鹿島先輩に言った「愛するという結果のために、愛することは出来ない」というのも嘘じゃない。
でも、もう一つ理由があった。
「千代田くんが嫌とかじゃ無くてね。私、転入して早々に恋愛が理由で、ちょっとトラブルに巻き込まれちゃって」
生徒会に入る理由にもなった件だ。
「だから、恋愛は嫌だなーって気持ちが強いんだ。ごめんね」
千代田くんは、首を横に振る。
気にしないで、って伝えたいんだろう。
「でも、これは私の気持ちで、私の我が儘だから、千代田くんが人になろうと頑張るのも勿論良いよ。それは千代田くんの気持ちで、千代田くんの我が儘なんだから」
千代田くんは、驚いた様子で私を見ていた。
長い前髪から除く赤黒い瞳が、いつもより少し開かれ、しっかりと見ていた。
私も彼を見る。
力になれるかは分からないけど、千代田くんの力になりたいとは思っている。
「今は進んで協力は出来ないけど、いつかそうなるために私の意識を帰るような事をしても良いよ」
彼の手を握る。
千代田くんは驚いて引こうとするけど、強く握った。
「あんまり、強引なのは困るけど、こんくらいなら全然ね」
少しの間、千代田くんは固まってしまった。
強引過ぎたかな?
心配になるけど、千代田くんは、ゆっくりと頷いて手を握り返してくれた。
「ありがとう」
「じゃあ、オレも手を握って良いかな?」
千代田くんじゃない声がした方を見ると、そこには会長がいた。
「会長⁉︎ なんで、ここに? いつからいたんです?」
「桜ちゃんが、今は進んで協力は出来ないけどって言った辺りからだよ。ここに居るのは、コレを渡そうと思っていて、忘れていたんだ」
会長はそう言って、革のケースに入った鍵を渡してくれる。
「生徒会室の鍵だ、お昼食べる時とかに使ってくれ。今日はオレが開けていたけど、普段は開いてないから」
今日、会長開けててくれたんだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。ちなみに、オレも手を握っても良いかい?」
「そんなに奇跡を起こしたいんですか?」
ニコリと笑う会長は、本気かふざけているのかは分からない。
でも、まぁ、
「……会長が頑張るのは拒否しないですよ」



