「会長!」


私が立ち上がろうとした所で、私の手と会長の手が、バッと離れる。


「千代田くん?」


いつの間にか居た千代田くんが、私の手と会長の手を掴み引き離すと、私の手を除菌シートで拭き始める。


彼は何も言わないけど、困っていると思って助けてくれたのかな。


「ありがとう」


私がお礼を言うと、千代田くんは頷いてから、口を開いた。


「あの人が女子に愛を語るのは、もう何度も有ったから……その……」


えっ、喋った!


殆ど喋らないって聞いていたのに、こんなに早く聞く事になるなんて!

千代田くんの声は、同級生の男子の中では低めの声で、イケボって言われる声だと思う。
声だけで、格好いい。


「こら、龍! 邪魔しないでくれ。今、良い所だったじゃないか!」

「別に良い所じゃなかったです」


私はすっごく驚いたけど、会長は千代田くんが喋ったのを気にしていないようだった。
もしかして、そんなに珍しいことでも無いのかな?


千代田くんは、何も言わない。


「ごめんね、千代田くん、何か言いかけてたよね」


さっきの続きを聞きたくて問いかけるけど、千代田くんは口元に手を当て、困った顔をしていた。

話してくれたのに、遮っちゃうなんて悪い事をしちゃった。

千代田くんは、何を言いたかったんだろう。


「桜ちゃん、キミが気にすることはないよ。多分だけど、オレの言っていることは本気にしない方が言いと、良いたかったんだろうからね」


そうなの? って思って千代田くんを見ると、彼は頷いた。


「酷い人だね! オレは奇跡を起こしたいだけなのに!」


会長は、両手で覆い隠し、大げさに嘆く。


滅茶苦茶、オーバーリアクションしてる。

……でも、こんなふざけた人だけど、何にも言わなくても伝わった辺り、千代田くんのことちゃんと分ってるんだろうな。