「ごめんね、ひよちゃん。大事な結婚式の前に……」
「大丈夫よ、気にしないで。それより私達は席を外した方がいい?」
「ううん。よかったらここにいてくれる?」
「うん、分かった」
4人で椅子に座ると、ようやく気持ちが落ち着いたのか、望美が話し始める。
「私が小学2年生の時に、両親が離婚したの。まだ子どもだった私は、理由がよく分からなかった。今日から新しいお父さんと一緒に暮らすのよって母に言われて、戸惑うばかりだった。だけどあの時、お母さんに他に好きな人が出来たのよね?お父さんはそれに気づいて、離婚を決めた。そうでしょ?」
聞かれてゴンさんは、うつむいたまま頷く。
「……ごめんな、望美。母さんに寂しい思いをさせていた俺のせいなんだ。母さんを幸せに出来なかった。望美のことも……。本当にすまなかった」
頭を下げるゴンさんに、望美はしばし沈黙してから顔を上げた。
「私の記憶の中のお父さんは、いつも温かくて優しかった。だから急にいなくなって、そのあとずっと会えないままで、それが何より辛かったの。どうして?って、毎日そればかり考えてた」
「望美……」
ゴンさんは肩を震わせて涙を堪える。
「ごめん。ごめんな、望美。離婚した時、毎月望美と面会出来ることを条件にしてたんだ。だけどお相手の男性から、望美が混乱するからやっぱりだめだとあとから言われて……。望美の為にも、忘れさせた方がいいからって」
そんな!と、望美はたまらず声を上げた。
「どうして勝手にそんなこと決められなきゃいけないの?忘れるなんて、無理だった。ずっと会いたいって、いつかまた会えたらって、そう思ってたのに……」
「望美……」
ついにゴンさんは、ボロボロと涙をこぼす。
「ごめんな、辛い思いをさせて本当に悪かった。どうか幸せでいてくれって、元気に大きくなってくれって、毎日そう神様にお願いしてた。こんなに立派に育ってくれて、俺のことを、まだ、お父さんなんて……」
言葉を詰まらせるゴンさんに、望美はようやく笑顔を見せた。
「15年ぶりなのに、よく私のこと分かったね、お父さん」
「分かるさ。望美のくりっとした目はあの頃のままだ。だけど、ものすごいべっぴんさんになっててびっくりした」
「ふふっ。お父さんも、白髪がいっぱいでシワも増えててびっくりした」
「すまん、すっかり冴えないオヤジになってて」
「ううん。さっき桜の木の下で、最初にひよちゃんに笑いかけた時に思ってたの。私の記憶の中のお父さんにそっくりだなって。まさか本物だとは思わなかったけどね」
ゴンさんは顔を上げて、泣き笑いの表情になる。
「記憶の中の若い父さんのままの方が良かったか?」
「ふふっ、まあそうね。だけど今のお父さんも、なんか愛敬があっていいわよ?」
「はっ?まさか、娘にそんなこと言われるとは……」
あはは!と望美は笑い声を上げる。
その時「失礼いたします」とスタッフが現れた。
「そろそろ挙式のお時間でございます。どうぞチャペルへお越しください」
はい、と4人で立ち上がる。
日向はスタッフに小声で話しかけた。
「披露宴の席順、権田源三さんと川瀬望美さんを、隣同士に変更してもらえますか?」
「かしこまりました」
腕を組んでいた日和が、日向を見上げてにこっと笑う。
「ありがとう、日向さん」
「いや。それにしても良かったな」
「うん。おめでたいね」
「ああ、さすがは桜の日だ。特別な日だな」
「ふふっ、そうだね。望美ちゃんとゴンさんにも桜咲いたね」
「ずっと忘れないでいよう。この大切な日を」
「うん!」
笑顔で見つめ合い、しっかりと腕を組んでチャペルに向かった。
「大丈夫よ、気にしないで。それより私達は席を外した方がいい?」
「ううん。よかったらここにいてくれる?」
「うん、分かった」
4人で椅子に座ると、ようやく気持ちが落ち着いたのか、望美が話し始める。
「私が小学2年生の時に、両親が離婚したの。まだ子どもだった私は、理由がよく分からなかった。今日から新しいお父さんと一緒に暮らすのよって母に言われて、戸惑うばかりだった。だけどあの時、お母さんに他に好きな人が出来たのよね?お父さんはそれに気づいて、離婚を決めた。そうでしょ?」
聞かれてゴンさんは、うつむいたまま頷く。
「……ごめんな、望美。母さんに寂しい思いをさせていた俺のせいなんだ。母さんを幸せに出来なかった。望美のことも……。本当にすまなかった」
頭を下げるゴンさんに、望美はしばし沈黙してから顔を上げた。
「私の記憶の中のお父さんは、いつも温かくて優しかった。だから急にいなくなって、そのあとずっと会えないままで、それが何より辛かったの。どうして?って、毎日そればかり考えてた」
「望美……」
ゴンさんは肩を震わせて涙を堪える。
「ごめん。ごめんな、望美。離婚した時、毎月望美と面会出来ることを条件にしてたんだ。だけどお相手の男性から、望美が混乱するからやっぱりだめだとあとから言われて……。望美の為にも、忘れさせた方がいいからって」
そんな!と、望美はたまらず声を上げた。
「どうして勝手にそんなこと決められなきゃいけないの?忘れるなんて、無理だった。ずっと会いたいって、いつかまた会えたらって、そう思ってたのに……」
「望美……」
ついにゴンさんは、ボロボロと涙をこぼす。
「ごめんな、辛い思いをさせて本当に悪かった。どうか幸せでいてくれって、元気に大きくなってくれって、毎日そう神様にお願いしてた。こんなに立派に育ってくれて、俺のことを、まだ、お父さんなんて……」
言葉を詰まらせるゴンさんに、望美はようやく笑顔を見せた。
「15年ぶりなのに、よく私のこと分かったね、お父さん」
「分かるさ。望美のくりっとした目はあの頃のままだ。だけど、ものすごいべっぴんさんになっててびっくりした」
「ふふっ。お父さんも、白髪がいっぱいでシワも増えててびっくりした」
「すまん、すっかり冴えないオヤジになってて」
「ううん。さっき桜の木の下で、最初にひよちゃんに笑いかけた時に思ってたの。私の記憶の中のお父さんにそっくりだなって。まさか本物だとは思わなかったけどね」
ゴンさんは顔を上げて、泣き笑いの表情になる。
「記憶の中の若い父さんのままの方が良かったか?」
「ふふっ、まあそうね。だけど今のお父さんも、なんか愛敬があっていいわよ?」
「はっ?まさか、娘にそんなこと言われるとは……」
あはは!と望美は笑い声を上げる。
その時「失礼いたします」とスタッフが現れた。
「そろそろ挙式のお時間でございます。どうぞチャペルへお越しください」
はい、と4人で立ち上がる。
日向はスタッフに小声で話しかけた。
「披露宴の席順、権田源三さんと川瀬望美さんを、隣同士に変更してもらえますか?」
「かしこまりました」
腕を組んでいた日和が、日向を見上げてにこっと笑う。
「ありがとう、日向さん」
「いや。それにしても良かったな」
「うん。おめでたいね」
「ああ、さすがは桜の日だ。特別な日だな」
「ふふっ、そうだね。望美ちゃんとゴンさんにも桜咲いたね」
「ずっと忘れないでいよう。この大切な日を」
「うん!」
笑顔で見つめ合い、しっかりと腕を組んでチャペルに向かった。



